ペット由来の感染症に注意
【毎日新聞社 2017年5月22日】
鳥から人に感染する「オウム病」による妊婦の死亡例2件が、先月初めて明らかになった。ペットを家の中で飼う人が増える中、厚生労働省などはこうした動物由来の感染症に改めて注意を呼びかけている。ペットと長く共に過ごすためにも、キスや添い寝など過度な接触は禁物だ。
●重症化や死亡例も
オウム病は、感染した鳥のふんが乾いて粉状になったものを吸い込んだり、ペットの鳥に口移しでえさをやったりすることで細菌が人の体に入り感染する。動物由来感染症に関する著書がある岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「急な発熱やせきなど風邪のような症状で、鳥が原因と気づかずに肺炎が重症化する場合がある」と説明する。抵抗力の弱い高齢者の感染例が多いが、妊娠中も免疫機能が下がるため注意が必要だ。
厚労省によると、統計のある1999年4月以降、先月までに389例の感染報告があり、死亡は8例。今回妊婦2人が鳥を飼っていたかは不明だが、過去の感染例では、ペットとの濃厚接触によるものが多いという。部屋をよく換気し、ふんをこまめに掃除することが予防になる。
動物に症状がなくても、人がかかると重症化する感染症も多い。代表的なのが、犬や猫にかまれるなどして感染する「パスツレラ症」だ。原因となる細菌は、犬の75%、猫のほぼ100%が口の中に持っている。傷口から感染すると腫れて痛むが、顔をなめられて呼吸器から菌が入り込むケースもある。岡部所長によると、乳幼児や高齢者、糖尿病患者などは骨髄炎や肺炎をおこし重症化する恐れがある。しつけでかみ癖をなくす▽キスのような過度な接触を控える――ことが有効だ。
●適切な距離で予防
「ペットの猫が原因で小2の娘が皮膚病になった。猫を安楽死させてほしい」。埼玉県富士見市のみずほ台動物病院(兼島孝院長)に数年前、母親が相談に訪れた。女児は猫を飼い始めてまもなく頭頂部に赤い発疹ができ、髪の毛が円形に大きく抜け落ちた。カビの一種が原因の「皮膚糸状菌症」で、猫の額にも円形の脱毛があった。兼島院長は皮膚科や小児科の医師と連携し、女児も猫も完治した。兼島院長は「ほとんどの感染症は治療できる。過度に恐れるのではなく、正しい予防法を身につけてほしい」と願う。
ペットの定期的な健康診断も予防になる。犬や猫の腸に寄生する回虫の卵が、ふんなどを通じて体内に入り起こる「回虫幼虫移行症」は、視力低下や脳炎などを引き起こす危険がある。兼島院長によると、手洗いの徹底でほとんどの侵入を防げるほか、回虫の有無は動物病院でペットのふんを検査すれば分かり、薬で駆除もできる。
飼い主にとって、ペットとのスキンシップは欠かせない。だからこそ、兼島院長は「一緒に遊んだ後は必ず手を洗うなど適切な距離を保つことが、人もペットも健康に暮らす秘訣(ひけつ)」と話す。【曹美河】
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◇ペットからうつる主な病気
主な症状 感染源となる主な動物
オウム病 発熱、せき、肺炎 オウム、インコなどの鳥類
パスツレラ症 傷の化膿(かのう)、骨髄炎、肺炎 犬、猫
猫ひっかき病 リンパ節の腫れ 犬、猫
皮膚糸状菌症 皮膚の腫れ、脱毛 犬、猫、ウサギ、ハムスター
回虫幼虫移行症 視力低下、脳炎 犬、猫
トキソプラズマ症 妊娠中に感染すると流産の危険性 猫
サルモネラ症 下痢、発熱 カメなどの爬虫(はちゅう)類
※日本医師会の資料などを基に作成