高齢者の歩くスピードがアルツハイマー病(AD)リスクに関連か?
歩行速度はほぼ全例正常範囲だったが...
【Medical Tribune 2015年12月7日】
高齢者を対象とした最近のオートプシー研究で,死亡前の歩行速度の低下がADの徴候を示す画像所見と関連することが示された。このことは,ADの病理は,認知機能の低下だけでなく,運動機能の低下にも関連していることを示唆している。同知見は,軽度認知機能低下(MCI)患者で歩行速度が低下すること,健康人の歩行速度低下と数年後のMCI発現が関連することを示した以前の報告とも一致している。しかし,ADの病理が運動機能障害を引き起こす機序は不明であった。
今回の研究では,認知症の発症リスクが高いと考えられる高齢者128例(平均年齢76歳)を対象として,脳内の特定部位におけるAβ蓄積と歩行速度との関連を検討した。
18F-AV45(florbetapir)を用いた脳PETによる脳内Aβ蓄積の評価では,48.4%の患者が陽性であった。また,思考力と記憶力に関する検査では,46.1%でMCIが認められた。標準的な歩行試験(各人の普段の歩行速度で4m歩く)を行った結果,平均歩行速度は毎秒1.06mで,2例を除き,正常な歩行速度の範囲内であった。
運動機能関連の脳領域へのAβ蓄積が歩行速度の低下に関連
年齢,性,BMI,APOE遺伝子型で調整した線形回帰分析の結果,被核,後頭皮質,楔前部,前帯状領域のAβ蓄積と歩行速度の間に有意な関連が認められた(全てP<0.05)。
del Campo氏らは「PETを用いた今回の研究は,ADの病理と歩行速度に関する以前のオートプシー研究のエビデンスをin vivoで追認し,特定の脳領域のAβ蓄積と運動機能との関連について,さらなるエビデンスを追加するものである」と述べている。
この関連の背景には,これまでADの病態生理研究では看過されてきた運動系と感覚運動系の回路が関与していると思われるが,Aβ蓄積が歩行速度低下の原因となるのか,Aβ蓄積と運動機能低下の双方に関連するライフスタイル因子(食生活,運動,喫煙など)やメタボリック因子,心血管因子が原因となって,両者の関連が示されたのか否かは,今回の研究からは分からない。同氏らは「正確な神経機構の解明にはさらなる研究が必要である」と提言している。