喫煙パラドックス」は幻想
SYNTAX試験5年目の検討で喫煙者の予後不良を確認
【難波寛子=医師 2015年4月1日】
喫煙が冠動脈疾患(CAD)の危険因子であることは周知の事実である。一方で、CAD患者、中でも心筋梗塞(MI)患者の予後は喫煙の有無により差がない、もしくはかえって喫煙者の方が予後良好であるという報告が散見され「喫煙パラドックス」として注目されていた。このたびSYNTAX試験(SYNergy Between PCI With TAXUS and Cardiac Surgery)の参加者を対象に喫煙状況と予後の関連を検討した結果、非喫煙者と比較して喫煙者の予後は不良であることが確認された。
SYNTAX試験は、左主幹部病変および/または3枝病変を有するCAD患者においてPCI(経皮的冠動脈インターベンション)とCABG(冠動脈バイパス術)を比較する目的で行われた前向き多施設共同無作為比較試験である。組み入れ基準を満たす患者1800人を1:1の割合でCABG群(n=897)とPCI群(n=903)に無作為に割り付けた。PCIにはTAXUS Express paclitaxel-eluting stent(Boston Scientific Corporation)を用いた。
本研究では、ベースライン、6カ月、1年、3年、5年の時点で全対象の喫煙状況を確認した。エンドポイントは、5年経過時点における死亡/MI/脳卒中の複合エンドポイントと喫煙の関連とした。主要脳心血管イベント(MACCE:死亡/MI/脳卒中/標的血管の再血行再建)と喫煙の関連も検討した。
ベースライン時の喫煙状況(現在喫煙している、喫煙歴があるが現在喫煙していない、非喫煙)は、5年経過後の死亡/MI/脳卒中およびMACCEに影響しなかった。現在喫煙しているか否かに注目して検討した場合も同様だった。
喫煙を時間依存性の変数として解析したところ、喫煙により死亡/MI/脳卒中(ハザード比[HR]:1.38、95%信頼区間 [95%CI]:1.02-1.86、P=0.035)およびMACCE(HR:1.28、95%CI:1.01-1.61、P=0.041)のリスクが増大することが分かった。 また、ベースライン時に喫煙しているとMIが多かった。
喫煙を時間依存性の変数として解析したところ、喫煙によりMIのリスクが増大することが分かった(調整HR:2.08、95%CI:1.30-3.32、P=0.002)。一方、観察期間中5年間の死亡、再血行再建に有意差は認められなかった。
これらのアウトカムに関するP値はCABG群とPCI群で有意差なく、血行再建法に関わらず喫煙によるリスクは増大すると考えられた。
著者らは喫煙が予後に及ぼす影響を論じた考察の小見出しにおいて「NO PARDOX EXISTS(パラドックスは存在せず)」と明言した。結論として、血行再建後のCAD患者において喫煙は予後不良、特にMIと相関すると改めて述べ、禁煙の重要性を強調している。