Lancet誌から
世界初、移植した子宮で妊娠・出産に成功
先天的に子宮を持たない女性を対象にスウェーデンで実施
【大西淳子=医学ジャーナリスト 2014年11月4日】
世界で初めて、子宮移植を受けた女性における妊娠・出産の成功が報告された。患者は先天的に子宮を持たない35歳の女性。生体子宮移植から1年後に、体外授精で作成した胚の移植を受け妊娠、妊娠31週と5日目に帝王切開で健康な男児を出産した。スウェーデンGothenburg大学のMats Brannstrom氏らが、Lancet誌電子版に2014年10月5日に報告した。
子宮がない、または子宮があっても機能しない絶対不妊女性に実施できる治療はこれまでなく、子宮移植による治療が検討されている。世界中で子宮移植が行われた女性は11人だが、出産に至った症例はこれまで報告されていなかった。
著者らは10年以上前から、子宮移植の前臨床研究に取り組んできた。先ごろ、患者を対象とする子宮移植の臨床試験を開始し、9人の女性に生体子宮移植を実施した。うち2人では、移植後数カ月で子宮動脈血栓症と重症の子宮内感染症が発生したことから子宮を摘出。残りの7人は、移植2~3カ月後で月経を経験し、その後1年間にわたって定期的な月経が確認されている。
著者ら以外では、子宮移植の報告は2例しかなく、最初の症例は、移植後に進行性の子宮壊死が発生して、3カ月後に子宮摘出が行われた。2番目の症例は、死体ドナーからの移植で、移植した子宮内に胚移植が行われたが、1回目の妊娠は生化学的妊娠にとどまり、2回目は臨床的にも確認されたが、6週までに流産となったことが報告されていた。
今回著者らが報告したのは、2013年に、スウェーデンSahlgrenska大学病院で生体子宮移植を受けた、先天的に子宮を持たないロキタンスキー症候群(Mayer-Rokitansky-Kuster-Hauser 症候群)の35歳女性の症例だ。レシピエント向け同意書には、「医学的な理由から、移植子宮は最大で2回の妊娠を成功した後に摘出する」という項目も含まれていた。
著者らは、移植の18カ月前から6カ月前に、レシピエントの卵子とパートナーの精子を用いた体外授精を行い、11個の胚を凍結保存した。
ドナーは2回の経膣分娩を経験している61歳の経産婦で、約7年前に閉経していた。レシピエントとは家族ぐるみの友人だった。
移植手術後、レシピエントとドナーは無事に回復。レシピエントに対する周術期の免疫抑制には抗胸腺細胞グロブリンを用いた。さらに、移植子宮に対する再灌流の直前に、メチルプレドニゾロンを単回投与した。維持的免疫抑制には、タクロリムスとミコフェノール酸モフェチルを用いたが、移植から10カ月を過ぎた時点で、ミコフェノール酸モフェチルをアザチオプリンに切り替えた。
レシピエントは最初の月経を術後43日で経験し4日間継続した。その後、月経は、26~36日間隔(中央値は32日)で周期的に生じた。
子宮頸部の生検により、移植から9日後と、6カ月24日後に軽い拒絶反応が、2カ月28日後には拒絶反応の疑いが認められた。それらは全てコルチコステロイドの投与により消失した。
移植から8カ月12日後の時点で子宮頸部異形成が認められ、ヒト・パピローマウイルス(HPV)検査を行ったところ、ハイリスクのHPV31型に感染していたため、小規模な円錐切除を行った。その後の生検では、異形成は検出されなかった。
移植から1年後に、解凍した1個の胚をレシピエントの子宮に移植したところ妊娠に至った。妊娠期間中の免疫抑制には、タクロリムス、アザチオプリン、プレドニゾロンの3剤を、用量を調整しながら用いた。妊娠中にも軽い拒絶反応が1回発生したが、コルチコステロイド治療により抑制できた。
胎児の発育と子宮動脈と臍帯の血流は妊娠中を通じて正常だった。患者は妊娠31週5日の時点で、子癇前症で入院、その日のうちに子宮の収縮が頻繁となり、胎児の心拍数に異常が検出されたため、入院から16時間後に帝王切開が実施された。
在胎週数に対応する正常な出生体重(1775g)の男児が誕生した。身長は40cm、頭囲は28.5cm、アプガースコアが9、9、10で、出生時の臍帯動脈血液ガスのpH値は7.21だった。
分娩後の子宮はオキシトシンの静脈内投与により適切に収縮した。
母子ともに状態は良好で、レシピエントは帝王切開から3日目に退院した。
「今回の子宮移植後の女性の生児出産は、閉経後の女性からの生体子宮移植の可能性を示し、子宮がない、または機能しない絶対不妊女性に対する子宮移植治療の概念実証に成功したといえる」と著者らは述べている。