アトピー患者に「汗かくな」はもう古い
アトピーの一部は「発汗」と「汗洗い流し」で著明に改善
【日経メディカル 2014年7月24日】
「汗をかくと痒くなる」ことから、アトピー性皮膚炎にとって「汗」は増悪因子だとされてきた。だが最近、汗の効用が見直され、積極的に汗をかくと皮疹が改善する患者が少なくないことが判明。従来アトピー性皮膚炎に対して行われていた「汗はかかない方がよい」という指導はもう時代遅れになってきている。
幼少期からアトピー性皮膚炎を患っている30歳代男性のAさんは、汗をかくと皮膚が痒くなるため、できるだけ汗をかかないように過ごしてきた。長年外用薬を主体とした治療を受けてきたが、ある頃からステロイド薬を塗っても十分な効果が得られなくなり大阪大学病院の皮膚科を紹介受診した。
同院皮膚科准教授の室田浩之氏はAさんに対して、薬物療法はこれまでの内容を継続するよう指導。その上で「汗」の様々な効用を説明し、日常の生活の中で少しでも発汗の機会を持つことはできないかと提案した。
室田氏の説明に納得したAさん。「毎日、汗をかくように心掛けてみます」との意欲的な発言を受けて、室田氏はAさんの意欲を後押ししつつ、かいた汗はそのままにせず、水道水で洗い流すか、濡れた布で拭き取るよう勧めた。 それから1カ月後、Aさんの慢性期の苔癬化病変は著明に改善した。Aさんが行ったのは、自転車通勤や入浴などで毎日汗をかき、かいた汗を洗い流すこと。処方薬は変更せず、「汗対策」を行っただけで皮疹が改善したことに、Aさんは大変驚き、喜んだという。
アトピー性皮膚炎と汗の関わりについて研究を進める室田氏は、「かいた汗による皮膚への刺激と、発汗のメリットは別々に考えるべき。汗をかくことには意外な効用がある」と指摘する。
大阪大学皮膚科の室田浩之氏は「患者の一部には、発汗の機会を持ち、かいた汗を洗い流すことで皮疹が改善するケースが存在する」と話す。
実は深い「汗」と「アトピー性皮膚炎」の関係
従来、汗はアトピー性皮膚炎の増悪因子だと考えられてきた。汗が痒みを増強したり、皮疹を悪化させることがあるからだ。「汗をかかないように」という患者指導も一般的に行われていた。
しかし一方で、汗には体温調節機能、保湿機能、感染防御機能(抗菌ペプチドやIgAを含む)──などの効用があることも分かっている。
例えば、皮膚のバリア機能を構成する皮脂膜は、汗と皮脂が混じり合うことで形成される。皮膚の恒常性維持に汗が重要な役割を果たすのではないかと考えられるようになっているのだ。