秋に向け、流行への備えを 対策の総括が必要
【2010年5月13日】
昨年4月に発生が確認された新型インフルエンザは、日本でも秋以降に大きな流行を引き起こした。想定されていたH5N1ウイルスによる新型インフルエンザほどには致死率は高くはないということが分かっている。
しかし米国では、推計で約1万2千人が死亡したと考えられている。日本でもこれまでに198人の死亡者が確認されており、この中には子どもや若者たちも含まれている。被害を決して軽視すべきではない。
この事実を重く受け止め、今回の対策の問題点を検証し、総括すべきだ。それが、これから起こる流行やさらには将来の新型インフルエンザ発生時に、被害を最小限に抑えることにつながる。
今回の流行は、新型インフルエンザ対策にまだ多くの問題点があることを明らかにした。
まずアジアを中心に流行を繰り返してきた高病原性鳥インフルエンザを想定した、非常に致死率の高い新型インフルエンザへの対策が優先されてきたために、今回のような致死率の比較的低い新型インフルエンザに柔軟に対応できなかったという問題がある。
また流行のピークにワクチンの供給が間に合わず、ワクチン接種をめぐり現場が大きく混乱した。これはもともと国内のワクチン生産体制が限られているという根本的問題が放置されてきたことが大きな原因である。
接種回数について国の方針が二転三転したことが混乱に拍車を掛けた。政府は急きょワクチンの輸入を決めたが、その対応は遅れ、輸入ワクチンのほとんどは使われないという事態になった。
日本では米国などに比べ死亡者が比較的少なかった。日本では早期に治療する医療体制が整っており、重症者の多くを救命できたことが一つの要因として考えられる。
もう一つの要因として、学校閉鎖や手洗いの徹底などによって、広い年齢層に感染が拡大しなかったことが考えられる。
日本では感染の大半が学校に通う年齢層で起こり、大人や小さな子どもの感染は比較的少なかった。だが致死率を比較すると5歳未満の子どもや大人、特に40歳以上では高い傾向がみられる。
つまり日本では、より重症化しやすい年齢層に感染が大規模に拡大しなかったことが、低い死亡率につながった可能性がある。逆に言えば、より重症化しやすい人が免疫を持たないまま、残っていることを意味する。
このウイルスが数年以内に消滅することは考えにくく、これからも流行を繰り返しつつ、季節性インフルエンザになっていくと考えられる。
今年の秋にかけて散発的な流行が起きる可能性はあり、秋以降には再び大きな流行を起こすことも十分に考えられる。重症化しやすい人たちの間で流行が起これば、日本でも死亡者が多く発生するという可能性もある。
この新型インフルエンザはもう終わったと考えるべきではなく、次の流行に備え、今のうちに対策を考える必要がある。特に重症化のリスクのある人たちへのワクチン接種は、今すぐにでも取り組むべき課題である。
今回の流行では対策決定に当たり、専門家の意見が十分に反映されないという問題もあった。国立感染症研究所の機能を強化し、専門家が対策の立案に積極的に関与できるようなシステムを早急に構築すべきだ。