冬控え、新型出現の懸念 人への感染続く鳥インフル 「鳥インフルエンザ-防げるか大流行」
【2006年10月24日】
鳥類の病気でありながら人に感染し、時に死につながる高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)。インドネシアなどでなお人への感染が続き制圧には至っていない。インフルエンザ流行期の冬を控え、人への爆発的な感染拡大をもたらす新型インフルエンザの出現が懸念される中、各国の現状や対応をまとめた。
▽世界的に広がる感染 警戒強める保健当局
2005年までアジア各国に限られていた高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の人への感染が、今年になってから中東・アフリカでも確認されるなど世界的な広がりをみせつつある。野生の鳥や家禽(かきん)への感染も既に50カ国以上で報告されており、渡り鳥を通じて米国などこれまで感染がなかった地域への上陸も懸念されている。
03年半ばにアジアで発生したH5N1型ウイルスはもともと鳥に大量死をもたらすウイルスだが、感染した鶏と接触する機会が多い農村部で人への感染が確認され死亡するケースが相次いだ。
05年までは中国、ベトナム、タイ、カンボジア、インドネシアとアジア地域だけだったが、今年に入りトルコやエジプトなどに飛び火。世界保健機関(WHO)によると、感染者は16日現在で累計256人、うち151人が死亡。
感染者が着実に増える中、保健関係者を驚かせたのは、インドネシアで今年4月から5月にかけ、鳥から感染した37歳の女性からおいの10歳の少年が感染、その少年から32歳の父親へ感染したケースだ。
人から人へ、より感染しやすいウイルスの変異が懸念されたが、遺伝子の解析で否定された。しかし人への感染の機会が増えるにつれ、そうした変異が出現する確率は高まる。
人類が経験したインフルエンザの世界的な大流行は過去に3回あった。WHOによると、1918年に発生したスペイン風邪(死者数4000万-5000万人)、1957年のアジア風邪(同200万人)、1968年の香港風邪(同100万人)。今回大流行が起こると3カ月以内に全世界に拡大し、死者数は少なくとも200万-740万人と推計されている。
WHOは患者発生の通報を各国に義務付けるなど監視態勢を強めている。各国は抗ウイルス剤の備蓄を急ぐとともに、新型インフルエンザの世界的な大流行が起こった際、薬の配布の優先順位や空港閉鎖などの対処方法も検討。
人への感染を防ぐには鳥での封じ込めが欠かせない。世界銀行によると、感染した鶏など2億2000万羽がこれまでに殺され、地域経済に大打撃となっているが、安心して処分できる補償の仕組みが大切だという。
国連のナバロ鳥インフルエンザ問題担当調整官は「動物の健康にも十分注意が払われないと人間にとっても大惨事になる」と警告している。
▽鳥インフルエンザ
鳥インフルエンザ インフルエンザウイルスによる鳥類の病気。感染が拡大しているのは毒性が強いH5N1型。鶏などが感染すると呼吸器、消化器に症状が現れ、大量死することもある。鶏肉、鶏卵を食べて人に感染した例は報告されていないが、生きた鳥との接触による人への感染が起きているほか、人から人への感染も確認されている。ウイルスの遺伝子が変異して人から人への感染力が高い新型インフルエンザになると、世界的に流行する恐れがある。